人間の下肢の機能は上肢と異なり、極めて単純である。それは簡単に”安定”と”移動”であると考えることができる。 その機能を得るため、大腿義足における立脚相の膝折れの防止や、正常歩行に似せるために、 歩行周期の変化に対応した遊脚相の制御などの機械制御が多く研究されてきた。残された重要な問題点は階段、坂道の昇降ができないことである。 図1は、長崎で義足を装着している人125人に、現在の義足の生活で何に困っているか聞いた結果である。 これを見ると、坂やの歩行に1番の問題を抱えていることが分かる。
下肢を切断した障害者にとって、運動機能を代替する義足は日常生活を送る上で必要不可欠なリハビリテーション機器である。 しかし通常、歩行機能として平地歩行しか対象としていないため、日常の生活空間に存在する階段や坂において、 大腿義足装着者は不自然な歩容を強いられている。遊脚相の制御がおこなえても、階段の昇降や坂道の歩行に対応できない理由は、 立脚中に全体重を支えたまま膝の屈伸をおこなわなければならないことにあり、小型で大出力のアクチュエータの開発が必要となると考えられている。 動力義足の研究としては以下のようなことが行われている。
階段上り歩行において、医療福祉研究所で、図2のようなRSA(ロータリーサーボアクチュエータ)を用いた義足開発が行われた。 これは駆動源として油圧を用い、ポンプをバッテリーで駆動したため発熱や重量、形状とともに過大なパワー源が必要となるなどの問題点を残した。 また、昭和60年から早稲田大学によって、図3に示す電気―油圧アクチュエータを使った階段昇降可能な動力義足、 WLP-8RⅡが開発されたが実用化にはほど遠く、軽量コンパクト化やパワーアップが望まれている。
一方ロボットにおいては2001年に、ホンダのASIMOなどが完全自立(コード類なし)で階段を上ることに成功しているが、 義足への応用となるとバッテリーなど問題点が多い。図4
そこで今回実用化のために、外部動力を一切使わず自らの筋肉をうまく利用して坂道を歩ける大腿義足を実現しようと試みた。 坂道を大腿義足で歩行するためには、上りにおいても下りにおいても、膝継手を任意の角度で止めたり屈曲抵抗を増したりすることが必要である。 つまり本人の意志により継手摩擦をコントロールできなければならない。そうすることにより、坂の下りばかりでなく上りにおいても、 断端の残存の股関節伸展筋を使って登ることが可能であるし、予期しない膝折れにも転倒防止対応できたり、 膝屈曲位で立ち止まったりできると考える。大腿義足の随意制御というと一般的には、股関節伸展筋によって膝折れを防ぐ意味に使われるが、 この研究の目指す随意制御は、機械制御の膝継手ではなく随意制御の膝継手である。・・Voluntary Operating Knee